経済安全保障「重要物資」とNSNの活用

  先日のトランプ政権による高関税政策は衝撃的でしたが、昨今の自国優先化する安全保障環境、パンデミックや気候変動に伴う災害等から、グローバルサプライチェーンへの信頼が揺らぎ、地政学とともに経済安全保障の重要性が増しています。こうした状況下で、日本は戦略的物資の供給網を強化し、安定した調達体制を確立する必要性が高まっています。

1. 経済安全保障「重要物資」11分野とNSN

 日本政府は経済安全保障推進法に基づき、半導体やバッテリーなど11の重要物資を指定しています。しかし、これらの物資は国際的なロジスティクスの枠組みに十分に統合されておらず、供給網強化の課題が残ります。

 一方、NATOをはじめとする国際的な調達システムでは、NCS(NATO Codification System:NATOカタログ制度) に基づき、NSN(NATO Stock Number) による分類管理が行われています。NSNは、各物資にFSC(Federal Supply Classification)の4桁コードを付与し、加盟国間での情報共有、在庫管理、相互供給を可能にします。

 特に重要物資のNCSへの登録は、民主主義国家を中心とした加盟国間での保全体制を確保し、技術情報等の流出を防止できる という大きなメリットがあります。これにより、日本の経済安全保障上のリスクを軽減し、戦略的物資の安定供給を実現できます。

2. 重要物資11分野のFSC分類

 日本が指定する経済安全保障「重要物資」11分野において、該当するFSC分類は以下の通りです。

重要物資 FSCコード 分類名
半導体 5961 Semiconductor Devices and Associated
蓄電池 6140 Batteries, Rechargeable
重要鉱物 9660 Precious Metals Primary Forms
航空機の部品 1510~1560 Aerospace Craft and Structural Components
工作機械・産業用ロボット 3410 Electrical and Ultrasonic Erosion Machines
永久磁石 5999 Miscellaneous Electrical and Electronic Components
天然ガス 6830 Gases: Compressed and Liquefied
クラウドプログラム 7030 ADP Software
船舶の部品 2010 Ship and Boat Propulsion Components
抗菌性物質製剤 6505 Drugs and Biologicals
肥料 7820 Fertilizers

3. 日本の課題と提案

 日本はNCSに加盟しているものの、現状では重要物資の分類と管理を十分に活用できていません。各重要物資に適切なFSC分類を付与し、NSNの管理体系に統合することで、以下のメリットが得られます。

  • 供給網の透明性向上:官民での在庫情報共有が可能になり、国内外の調達がスムーズに
  • 調達の迅速化:統一された分類管理により、緊急時の物資供給を効率化
  • 相互供給の強化:国際的な防災・安全保障ネットワークと連携し、安定供給を確保
  • 技術情報の保全:NCSを活用することで、機密情報の管理が強化され、技術流出リスクを低減

4. NSNの活用とNCS加盟国との連携

 30Advantageは、防災用品の他、経済安全保障に関わる物資の統合供給プラットフォームとして、NSNの仕組みを活用し、国際的な物資調達・供給の枠組みとの連携を図ります。

 また、JBSN(JB共通分類番号) とNSNの統合活用を進め、日本独自の分類番号を活かしつつ、国際的な物流標準との適合性を高めます。この取り組みにより、日本の防災・安全保障物資の調達・管理をより効果的に行い、災害対応や有事における供給網の強化を図ることができます。

 今後、日本はNSNの活用を推進して民主主義国を中心としたNCS加盟国との輸出入の選択肢を増やし、経済安全保障の観点からもロジスティクス、サプラチェーンの最適化を進めるべきと考えます。