なぜ今、日本にJSNが必要なのか ― 災害対応と国家ロジスティクスの構造課題 ―

国際情勢の不確実性が高まる中、日本においてもサプライチェーンの強靭化は喫緊の政策課題となっています。
政府は、いわゆる「戦略的に重要な17品目」を指定し、物資・部材の安定供給体制の確立を進めています。

また、近年相次ぐ大規模災害を踏まえ、災害対応の司令塔機能を担う防災庁(仮称)の創設に向けた議論も進められています。
平時・有事を問わず、国家としての物資供給体制の再構築が求められている状況です。

加えて、これら戦略的物資を巡る課題は、単なる安定供給にとどまりません。
地政学的リスクが顕在化する中で、「いかに外部依存を低減し、自律的に供給できるか」という戦略的自立性、そして「国際社会において代替困難な供給能力を持つ」ことによる戦略的不可欠性が、国家の競争力を左右する重要な要素となっています。

しかしながら、現状の日本においては、個々の製品や技術の競争力は高い一方で、それらを体系的に識別・管理し、国内外の調達ネットワークに接続する基盤が十分に整備されているとは言えません。

ここにおいて、JSNのような共通識別体系は、単なる物資管理の効率化にとどまらず、以下のような戦略的意義を持ち得ます。

第一に、国内の製品・部材を可視化し、代替調達を可能とすることで、特定の供給源への依存を低減し、サプライチェーンの強靭化、すなわち戦略的自立性の向上に寄与します。

第二に、品質・規格が明確化された国産製品を体系的に整理し、国際的な調達基盤と接続することで、日本製品の信頼性と代替困難性を高め、結果として戦略的不可欠性の確立にもつながります。

すなわち、JSNは「国内最適化のための仕組み」であると同時に、「国際的な供給力を高めるためのインフラ」として位置づけることが可能です。


■ 繰り返される“物資が届かない”という現実

日本は災害大国であることに疑いの余地はありません。
一方で、災害のたびに繰り返されるのが「物資が届かない」という問題です。

備蓄は存在し、企業の供給力も一定程度確保されています。それにもかかわらず、必要な場所に、必要な物資が、適時に届かない状況が発生しています。

この問題の本質は、単なる輸送力の不足ではありません。
より根本的には、「物資を共通言語で識別・管理する仕組みが存在しない」という構造的な課題に起因しています。


■ 日本に欠けている“共通言語”

現在、日本の災害対応における物資管理は、自治体・企業・組織ごとに個別最適化されており、統一性に欠けています。
同一製品であっても呼称や分類が異なるため、代替調達や横断的な融通が円滑に行えないケースが少なくありません。

例えば、ある自治体で不足している発電機が、別の地域では余剰となっている場合でも、それを即座に特定し、調達につなげる仕組みは十分に整備されていないのが実情です。

このような「見えない在庫」や「分断された需要と供給」が、現場の混乱を招く要因となっています。


■ 国際的には既に存在する仕組み

こうした課題に対しては、国際的には既に有効な解決手段が存在しています。
それが、NATOカタログ制度です。

NATOカタログ制度では、あらゆる物資に対して統一された識別番号(NSN)を付与し、共通のデータベースで管理しています。
これにより、異なる国や組織間であっても同一物資を正確に特定することが可能となり、代替品の検索や迅速な調達が実現されています。

すなわち、「物資を正確に識別する仕組み」が、そのまま「供給力の向上」に直結していると言えます。


■ 日本版の必要性 ― JSN構想

しかし、日本においては、このような仕組みの活用が十分に進んでいるとは言えません。
その結果、災害対応や官公庁における物資調達において、標準化の遅れが顕在化しています。

この課題に対する一つの解として、日本版の共通識別体系である「JSN(Japan Stock Number)」の構築が考えられます。

JSNは、国産製品を中心に、

  • 統一された分類体系(FSC準拠)
  • 地域性を反映した識別(都道府県コード等)
  • 民間企業も参加可能な柔軟な運用

を備えた、新たな物資管理基盤を目指すものです。


■ 災害対応における実装価値

JSNが実装された場合、災害対応の在り方は大きく変わることが期待されます。

例えば、避難所で不足している物資を迅速に特定し、全国規模で代替品を検索した上で、調達・輸送を一体的に実行することが可能となります。

これは単なる業務効率化にとどまらず、人命に直結するロジスティクスの高度化につながるものです。


■ 今後に向けて

本稿では、日本における物資管理の構造的課題と、それに対するJSNの必要性について概観しましたが、
引き続きより具体的な論点について整理していきたいと思います。

30Advantageでは、災害対応および官民調達の高度化に向けた取り組みを進めています。
今後も、本テーマに関する考察および実装の動向について継続的に発信してまいります。